6月5日。
「なんで梅雨ってこう雨ばっかり振るのかしら。洗濯物が乾かないじゃない」
「普段のハルヒの行いが悪いからじゃないのか?」
「なんか言った?」
「別に…」
はぁー… ホント梅雨って嫌い。
こんなジメジメしてて気温も微妙だし元気だけ吸われてくような気がするわ。
キョンもなんか冷たいし、面白くない…
「キョン、今日の晩御飯何がいい?」
こうやって毎日食事する身になって気づいたんだけど、毎日食事考えるのって案外難しいのよね。
お母さんがよく聞いてた気持ちがよくわかるわ。
「ハルヒに任せる」
ようやって中途半端な返事聞かされるとイライラするのよね。
あたしに任せる?なんならキョンが苦手な物のオンパレードにしてやろうかしら。
んー、でもキョンに『美味しい』とか言われると凄い幸せなのよねー…
あれ聞くためにご飯の支度するようなものだし…
キョンに最悪な食事とか言われた日には自決ね。
「キョンの嫌いな物ばっかりにするわよ?」
「別にいいんじゃないのか? ハルヒのなら食えそうな気がするし」
そんな言い方されたらあたしは罪悪感ばっかり溜まるじゃない。
あぁ、もうキョンめー… 反則なのよ一言一言が。
「なんかキョン冷たいわよバカァッ! ちゃんとコッチ向いて話してよ!!」
「今それどころじゃねえって!! 考えることが不可能!」
むぅー、キョンったら何ゲームに夢中になってんのかしら。
少しぐらい構ってほしいからこうやって話してるのに!
「ねぇキョンってば!」
「待ってくれよ! ってあぁあぁぁあぁぁ!!」
見事に目の前で主人公が倒れたわ。
まったく、こんなゾンビたちぐらい気合でどうにかしなさいよ。
「ハルヒの馬鹿野郎… もうちょいでセーブ場だったのに…」
「知らないわよ。同棲してるにも関わらず家の中のこの寂しい空気は何!?」
「梅雨だからじゃないか?」
「まぁ一理あるけど… やっぱないわよ! 全然ない!」
「じゃぁどうしてほしいんだよ」
だからその台詞反則なのよ!
あたしから口から『構ってよ』なんて出すの恥ずかしすぎて言えないじゃない!
「あぁ、わかったハルヒ。ゲームするか?」
このゲーマーめ…
今の問題はリアルよリアル! そんな仮想空間なんてどうでもいいのよ。
「なぁハルヒ。ちょっとこっちこい」
「な、何よ… バトルってんなら本気だすわよ」
「何で家の中でお前とバトルしなきゃならないんだ。俺の勝率の方が低いぞ」
「で、何よ」
キョンの命令なので仕方なーく近寄ってあげた。
ふん、実はキョンの方が構ってほしいんじゃないの? そうならそうと言いなさいよ素直じゃないわね。
「ってきゃぁぁああ!?」
予想外、というより予想なんて出来るはずがなかった。
何なのよいきなり抱きついてきてこのバカ…
ビックリしすぎて心臓バクバクじゃない…
キョンは未だにキスの一つもしてくれないし、こうやって抱きついてくれることも滅多にない…
なんか凄い心地いいかも…
「構ってほしいならそういえばいいじゃないか」
「はぁ?何言ってんのよ、あたしは別に…」
「なら離すぞ」
「そ、それはダメよ」
今あたしがどんな顔してるのかわからない…
はぁー… なんかキョンってズルイわね… 言葉の使い方が上手いのよ…
「何がダメなんだよ、言ってみたらどうだ?」
ちょっと調子に乗ってるわねこのバカ。
少し怒ろうかしら? あぁぁ… でもこの状態から離れたくないし… 何より怒った後のズキズキ感の修復をどうするかよね。
それが原因で別れる、なんてなったらあたしは終わりね。
やっぱ正直に言うべきかしら。 でもなんかキョンに言うのは嫌なのよねぇ、何でかしら?
もっと強く抱きしめてほしいかなぁ、幸せ…
「いいから黙ってこうしてなさいよ」
「なんじゃそりゃ… まぁいいけどさ」
もっとこうぎゅーっ、ってしてくれないのかしら。
強ければ強いほど嬉しいんだけど…
一方的に抱きしめてもらうより抱き合ったほうがいいのかな?
まぁ誰も見てるわけじゃないし、いいわよね。
「トゥルルルルー トゥルルルルー トゥルルルルー」
あたしの勇気がちょうど振り絞れて行動にでようとしたその時だった。
この最高に幸せな時間が破壊された…
一つの携帯電話によって。
あぁぁぁぁぁ、もうイライラする…
なんでなのよ、誰なのよまったく!! イタズラ電話だったら怒鳴ってやるわ。
「誰からだ?」
携帯の画面には
≪着信あり:実家≫
何よこんな時に電話なんて。
「家から… はぁー…」
深い溜息をついてから電話に出た。
もう最悪… もう一回さっきの状態に戻りたい、なんてキョンに言えるわけないし…
「もしもし?」
『あぁハルヒ? ちょっとさこの土日戻ってきてくれない?』
「へぇぁ!?」
『どうせ一人じゃ寂しいでしょ? ちょっと用事ついでに久々に戻ってきなさいよ』
「え、あ、いや… そう…だけど…」
そういえば親には同棲なんて一言も伝えてないのよね…
向こうは心配してるのかもしれないけどいい迷惑だわ…
今更同棲してるなんて言えるわけないし。
それに用事って何かしら? もしかしてバレたとかないわよね。
『それじゃあね』
「あ、うん… また…」
『ガチャッ、ツーツーツーツー…』
あぁぁ… どうしよう… 雰囲気的に行くことになっちゃった。
二日間キョンと会えない…? 嘘…
「何だって?」
「うわぁあぁぁぁん、きょぉぉんぁぁ!!」
「うぉ!? どうしたんだよ」
結局さっきとは反対だけどまたあたしはキョンに抱きつくことが出来た。
凄く幸せだけど… どうしよ…
キョンのことだからあたしがいない間に色々しちゃうわ…
知らない女性家に連れ込むかもしれない、浮気するかもしれない、エロ本読んでるかもしれない…
あぁぁ… どうしよう…