再び世界が再起動するまで俺はハルヒの顔を凝視していた。
どういう意味だ・・・? いや、今更とぼける気は無いが・・・
「あたしは一度はキョンと二人っきりで生活してみたいって思った事はある・・・ キョンは嫌なの?」
「嫌じゃない、だが戻らないと何も出来ないだろう。 ずっとこんな所にいたいのか?」
「居たいわよ!悪いの!?」
こんな所に居たいだと・・・?
何のためにだよ・・・
「ハルヒ! お前俺に言ったよな! 告白の返事は戻ったら教えてくれるって!」
確かにハルヒは言ったはずだ。
こんな所で告白するバカは嫌、だから告白の返事は戻ってからだと。
「もし、もしよ? あたしが好きなんでしょ? なら戻ってあたしの返事がNOだったらどうするのよ」
「そうなのか? 返事は」
NOならばここに二人っきりで居るほど気まずい状況は無い。
ハルヒも嫌だろうしな。
「そっか、残念だハルヒ。 諦めるよ」
「だ、誰も嫌なんて言ってないじゃない!!」
「ならいいのか?」
「うるさいわよ! 戻ってからって言ったじゃない!」
なんだか慌てるハルヒは面白さと可愛さがあった。
もうちょい出来るかな?
「俺は早く返事が聞きたい。 その後に二人で生活する事だって出来るだろう?」
「この歳で同棲? あんた変な事考えてるんじゃないでしょうね」
「さぁな。 エロハルヒ、お前昨日の夜俺に何したか覚えてるか?」
「エロ言うな!! ってあんたまさか見てたの!?」
「バッチリとな」
昨夜の話。
やはりというか、当たり前というか、俺はハルヒを毛布越しに抱き締めていたので、多少興奮ってものが発生したわけだ。
いや、男ならしょうがないだろ?
で、だ。 目開けてちゃ寝ようとしても寝れないので、とりあえず瞼は閉じた。
すると、だ。
『え・・・ 何コレ・・・ どんな状況よ・・・』
ハルヒが起きた。
まぁ面白そうなので寝たフリを俺はしていた。
『キョン・・・ 何であたしなんかのために・・・』
コツンと額に硬いものがあたった。
多分ハルヒの頭かデコだと思う。
『よっぽどあたしに惚れてんのね、バカな男よほんとっ。 あたしよりいい女なんていくらでもいるのに・・・』
俺の知ってる中の女性でハルヒが一番いいと思ったから好きなんだろ?
『あたしもキョンが好きだからね、まぁ戻ったら教えてあげるわ』
もう俺は返事を聞いてしまった。
さすがに寝たフリするのも悪く感じたが、バレたら殺されそうだったので持続した。
『キョン、今日はお疲れ様』
少しずつ違和感を感じた。 顔に。
何かが覆い被さるような感じ、どんどんと何かが近付いてくる。
温かい空気が感じられる。 明らかな吐息。
誰でもないハルヒの。 それが俺の唇にかかっていた。
さすがに白状しようと思ったが。
『やっぱりキスはまだ早いわね。 その代わり、今だけ抱き締めてあげるから』
ぎゅうっ、と背中に力が入って、俺は更にハルヒに近付いた。
『おやすみ、キョン。 明日は帰ろ、一緒に』
これが昨夜の話。
「抱き締めてくれてありがとな、嬉しかった」
「別にお礼言われるほどじゃないけど・・・ それより何で起きてるって言わなかったの!?」
「そっちの方が面白いだろ。 返事は貰ったし、戻ろうぜハルヒ」
ハルヒの顔を赤くして恥ずかしそうな表情が一転した。
「返事聞いたなら、もうここで生活してもいいじゃない」
小悪魔のような顔だった。
俺は溜息をわざとらしくついた。
「戻って沢山デートしよう。 美味いもん食ったり、服買ったり、遊びに行ったりしよう」
そうさ、俺たちにはまだまだ時間は余っている。
それをどう過ごそうが俺の自由であって誰かに束縛されるものではないはずだ。
だからこんな所にずっといるなんて御免だね。
俺は帰っていつも通りの時間を過ごす。
ハルヒと共に。
「ならキョン、毎日毎日、色々あたしに付き合ってくれる?」
「あぁ、飽きてもお前の気が済むまでな」
「そっか、うん、団長命令。 あたしと付き合いなさい! それで空いた時間は一緒にいること! 」
「わかった、絶対に守ってやるよ」
結局、戻る前に完全な返事は聞かせてもらえたんだよな。
付き合うぐらい命令じゃなくて普通に言ったらどうだ?
そっちの方が、可愛さがあっていいと思うぞ?
「うっさいわね、団長様が付き合ってあげるんだから少しは嬉しい顔しなさいよ!」
漫画や小説の中で絶体絶命の状況で男女が結ばれる可能性高い。
今の状況が絶体絶命なのか?と言われれば俺はNOと答えるだろう。
なんせ神様が隣りにいるんだしこのまま死ぬ可能性の方が低いと言ってもいいだろうしな。
よく考えれば俺はとんでもない人と付き合うことになってしまったんだよな。
この先、天災になるような被害は起こさないように俺は努力しなければならないのか。
そう思うとこの先威圧感に押し潰されず生きてけるのか急に心配になるじゃないか。
「なぁハルヒ、お前って苦手な物とかあるか?」
とりあえず天災の予知が出来るならばその前に予防すればいいのだ。
まぁこんな事聞いて天災から逃れれるなんざ思っちゃいないがな。
「苦手な物・・・ あぁ、そうだ。キョンがあたしの命令に逆らったら怒るわよ」
苦手じゃないし、更に天災の条件を増やしてしまった気がする。
命令に逆らっただけで世界が崩壊したらどう責任を取ればいいんだ・・・?
「なぁハル・・・」
「てなわけで命令その一、今から何か飲み物作ってくるから、あんたはゆっくりしてなさい」
俺の意見を聞かないのは昔から変わらない事だ。
どうせ聞いてもらったところで却下確実だろうがな。
「はぁー・・・」
溜息なんて高校入ってから数え切れないほどに出てるな。
「あー、そうだキョン。 あたし下ネタとか大っ嫌いだからその辺注意しときなさいよ」
おっと、それは聞いといて正解だったな。
もし危うく変な発言してたら即刻死刑にされてたかもな。
「了解しましたよ、団長さん」
別にハルヒに対してやましい事思ってるわけでは無いしな。 ただ純粋に好きなだけだ。
こうやって二人で過ごすのは確かにいいかもしれない。
だがデートは出来ないし、こう二人っきりの時間が有り過ぎるとなんだか離れた時の凄く会いたいという気持ちが味わえないだろう?
それで会った時に飛びっきりの幸せが感じられるもんだろう。
「まぁキョンの言うことも一理あるわね」
だろう?
恋人の生活なんてそんなもんだ。遠距離恋愛だったらもっと会えなくなる事を想定してみろ。
悲しすぎるだろ? だが会えた時の喜びは普通より遥かに大きい。
知ってるか?とある男は十年に一度しか陸に上がれずに、その時十年に一度の再開を最愛の女性と出来るんだぜ?
そんな日はもう世界に何か起きるのではないかってぐらいな幸せを感じれるぞ。
「あっそ」
見事に流されたな。
悲しい気持ちが満ち溢れてくるだろうが。
「ハルヒさんよ、俺はそういう展開を望んでいたんだが、何故今こんな所で遭難しているんだ?」
「誰のせいよ」
まぁ確かに俺が原因なんだが・・・
「まぁこうして本音が吐けたんだから結果オーライって事か?」
「プラス思考ね、まぁ確かによかったわ」
世の中プラス思考で行かなきゃ生きてけないさ。
「っと待てハルヒ」
椅子から立ち上がったハルヒの腕を掴んで止めた。
ハルヒは驚いたような顔でコチラを凝視している。
「な・・・ 何よ・・・」
「とりあえず好きだ」
「とりあえずって・・・ 何かオマケみたいに・・・」
俺はずっと前の夢の事を思い出した。
閉鎖空間の中で俺とハルヒ二人っきりで、脱出方法が白雪姫というドラマのような出来事。
あれをもう一度やれば戻れるんじゃないかって思った。
「んんっっ!?」
そのまま前回と同じようにハルヒの許可無しに唇を塞いでしまった。
戻れるならば結果オーライだ。
おう?
何にも起きないな。
閉鎖空間の時はキスした後、すぐに現実に戻ったのだが・・・
なんか唇に感触がずっと残ったままなんだが・・・
少し目を開けてみたら目の前にハルヒがちゃんと居た。
しっかりと目を瞑ってるな・・・
どんどん恥ずかしくなってきたぞオイ。
さすがにそろそろ離れないとまずいかな・・・
「ハルヒ?」
ハルヒは目を瞑ったままピクリとも動かない・・・
俺の言葉にも見事に反応せず・・・
「・・・」
ハルヒは沈黙したまま、ゆっくりと瞼を開いた。
すごいな、ハルヒの瞳が震えてやがる。
キスはまずかったか?
そりゃいきなりだもんな、やられた方は驚くだろうな。
「おい、本当に大丈夫か?」
魂が戻ってきたのか、ハルヒはハッとしたような感じになって、そのまま俺を睨みつけた。
「こんのぉっバカキョン!!!」
胸倉を掴まれて今度こそ確実にカツアゲされてる気分だ。
というかハルヒさん、首絞まってます、苦しいです・・・
「うるさいわよ!! あんた何したかわかってんの!?」
唇同士をくっつけただけだろ? マウストゥーマウスだ。
「殺すわよあんた!」
こんな事で殺されたらたまらん。
それにお前昨夜俺にやろうとしてたじゃないか?
「うっさい! あん時は感謝・・・、じゃなくて、ただ単に少しだけ近づいてみたのよ!!」
感謝ねぇ~? ハルヒが俺に?
なら俺も色々感謝してるしいいんじゃないか?
「もうキリが無いわ、バカキョン」
ガッと胸倉を掴まれたまま、遠心力に流されてハルヒの手の中から空中に俺は放り投げられた。
「ってぇ・・・」
そのままソファーの鉄の部分に直撃して、俺は座り込んだ。